ラッダ@瀬音リサはコンスタンチン@澄輝さやとから花をもらって本当に嬉しかったのだと思います。
確かにゾバールの言う通り、彼らは花なんかよりパンやパンを買うお金が絶対に必要でした。
花を愛でている場合じゃなかった。
日々食べていくことに必死だった。
でも、そんな時だからこそラッダの心に花が響いたのではないでしょうか。
ロマンチックな推察かもしれませんが、パンやお金の力でラッダの心が動いたとは思えないのです。
パンやお金が必要なことに変わりはありませんが、ラッダは生きる誇りをもらったのだと思います。
かと言って、コンスタンチンはそこまで狙ってラッダを花で口説いたとも思いません。
彼は器用ではない分、その誠実な想いと彼なりの誇りを花に託したのです。
不器用な割には盲目な恋ではなく、強引に推し進めることもすぐに諦めることもなく、ラッダの立場を考えてアプローチするコンスタンチンの行動は実に身の丈をわきまえており紳士的でした。
そんな紳士なコンスタンチンを澄輝さやとが演じることに意味と価値があるのです。
激情的に当り散らしたオリガでさえ、当たる「当て」もないほど、澄輝さやとのコンスタンチンはきちんとしていました。
彼女はオールバックをはじめ、カチッと固めた髪型にすると甘いマスクと引き締まった造形の美しさが掛け算されるので大変魅力的になります。
洗練された武骨。
そんな逆説的な魅力が澄輝さやとにはあります。
桜木みなと演じるゾバールは革命の夢を盲目に志すと言う意味ではショーブラン的な役。
最期まで失うことのない目のギラつきは、志の炎が消えなかった証拠だと思います。
ジプシーの衣裳をもろともせず軽快に踊るのに、メッセージ性が強いので伝わってくる想いや意味はずっしり届いてきます。
彼らが生み出すのは安っぽい熱狂ではなく、混沌としたうねるような祖国への、大地への情熱の嵐でした。
同様にマキシム@和希そらのダンスも抜群のキレを魅せますが、やはり軽々しくなく強い意志を持って踊っているのがひしひしと伝わってきました。
今回はきっとそんな想いも目を惹いたのだと思います。
活動家たちやジプシー酒場の人達は不幸にもみんな亡くなります。
彼らの死がドミトリーに与えたものが大きく、決定打になったことは間違いありません。
有意義な死、価値ある死などこの世には絶対にないです。
ただ、無念の死、悔やんでも悔やみきれない死が(結果的に)人に何かを与える、訴えることはあると思います。
「みんな死んでしまう」という意味では同じなのに、なぜ「邪馬台国の風」と(演出的に)雲泥の差を感じるのでしょう。
この件は「邪馬台国の風」の公演レポートで書かせていただきます。
ドミトリーを愛したことで出会う過酷な運命、そして彼女自身がドミトリーに突き付ける過酷な運命。
上田久美子先生は星風まどかにも試練の役を与えました。
最初私は「次期娘役トップスターとして」綺麗事ではない難役を乗り越え、成長してもらう意図が(上田先生に)あると捉えていましたが、今もう一回考え直すと全然違うなと。
この公演、作品において「次期娘役トップスター」なんて関係ないのです。
星風まどかという娘役が、オリガという役にどう立ち向かうか、それだけです。
オリガをかばうつもりはありませんが、彼女の最後の選択は状況的に追い詰められて仕方なかったと考えます。
ドミトリーへの想い、信頼を裏切られ(たと感じ)、生きていく場がなくなった彼女に残された道はアレクサンドラしかなかったのです。
ドミトリーと最後に上手ですれ違う時の苦しそう表情が印象に残ります。
彼に対する怒りや憎しみではなく、
「だってこうするしか私自身が生きていけないのだもの」
と辛そうに弁解しているように見えました。
「オリガならどう思うか、どう感じるか、そしてどう行動するか」のみに集中した星風まどかは明らかに一皮向けた感じがします。
行間という台詞の間もないような場面でも、感じていることを全身で表現しなければならないオリガという難役、挑戦しがいのある役はまだ様々な可能性を秘めているはずです。
千秋楽、星風まどかが最後に生きるオリガの人生もしっかり見届けたいと思います。
元雪組トップ、早霧せいなの退団後初コンサート「SECRET SPLENDOUR」(荻田浩一構成、演出)が、19日、梅田芸術劇場シアタードラマシティで千秋楽を迎えた。今回はこの公演の模様をお伝えしよう。
7月に「幕末太陽伝」で退団したばかりの早霧の再出発は、様々なジャンルから集まったエキスパートたちが早霧の新たなスタートを祝いながら、早霧と共にパフォーマンスを披露するといった、これまでのトップの退団後初コンサートとはひと味違ったユニークなステージだった。
早霧を中心とした出演者は、東宝版「ロミオとジュリエット」の死役で注目を浴びたダンサー、大野幸人、ミュージカル女優として多彩な才能を発揮する小野妃香里、「アラジン」「ノートルダムの鐘」など劇団四季の大作ミュージカルに次々に主演している海宝直人、圧倒的な歌唱力を誇る歌姫JKim、サックスプレイヤーの一面も持つ丹澤誠二、ダンサーだけでなく振付家、女優としても活躍する原田薫というひとくせもふたくせもある面々。これに長崎県出身の同郷で宝塚の大先輩でもある安寿ミラが特別出演で参加するという豪華版だ。早霧は時にはかっこいい男役姿、時には背中をあらわにしたロングドレスと変幻自在、さまざまな表情を見せ、女優としてのスタートにあたってのショーケースのようなステージだった。
ACT1は、フランス、イタリア、スペインを漫遊する形式をとりながら「伯爵夫人」「ローマの休日」「哀しみのコルドバ」と早霧が宝塚時代に出演した作品の名場面や主題歌などをダンスナンバーなどでつづっていく。フランス編のミシェル・ルグランメドレーでは上演中の雪組公演のショーでも使われている「風のささやき」が登場するなど、偶然ではあるが不思議なつながりが面白い。イタリア編ではオードリー・ヘプバーン即興曲で早霧がアン王女に扮した映像が流れ、それがあまりに似合っていて、退団後はこちらで見たいと思うほどだった。スペイン編の「哀しみのコルドバ」では「エルアモール」などのメドレーのあと安寿と早霧が闘牛士と牛になって踊るダンスシーンもあって、これはなかなかのみものだった。続く帝都幻想は大正ロマンの世界。着流しで登場した早霧の殺陣がみどころで、「るろうに剣心」で見せた鮮やかな刀さばきを男性相手に再現した。
ACT2は、「ルパン3世」をフィーチャーしたダンスナンバーがオープニング。全員が真っ赤な衣装で登場、スタイリッシュに踊る。「先生と踊ってみよう」のコーナーは平沢智と桜木涼介が交代で出演。私が観劇した日は平沢の日で「私立探偵ケイレブ・ハント」から「シティ・ラプソディ」のデュエットを披露した。
ミュージカルなショータイムでは「ハウ・トゥー・サクシード」「ジキルとハイド」「スイート・チャリティ」などからゲストメンバーが歌い踊り、早霧は「ファニーガール」から「パレードに雨を降らさないで」をドレス姿でしっとりと歌い上げた。
男役の殻を脱いだ早霧は、生き生きそしてのびのびしていて、在団時よりさらに魅力的。スーツ姿、ドレス姿、そして着流し姿とどれも、よく似合ったが、ドレス姿で肩を出すとあまりにすらりとしていて、よくこれでハードな男役が務まったものだと改めて感心した。
すでに来年5〜6月にはミュージカル「ウーマン・オブ・ザ・イヤー」への出演が決まっている早霧。ブロードウェーではローレン・バコールが主演してヒットした舞台だが日本では「ミズ」のタイトルで1982年に鳳蘭が演じた都会的でスタイリッシュな作品。いまの早霧にはぴったりのミュージカルだ。
早霧の前雪組トップ、壮一帆が真琴つばさとダブル主演したミュージカル「アダムス・ファミリー」も東京公演が終わって、現在全国ツアー中。壮は、バンパイア一族の妻役を真琴とはまた違った新鮮な役作りで演じ、満員の観客を大いに沸かせていた。「ポーの一族」とも関連性にあるミュージカルとあって大阪公演の客席には稽古中の花組メンバーの姿もちらほらみえるなど、場内は華やかな雰囲気だった。
c宝塚歌劇支局プラス11月20日 薮下哲司 記
◎…「毎日文化センター(大阪)」では「薮さんの宝塚歌劇講座」(講師・薮下哲司)2017年秋期講座(11月〜3月)の受講生を随時募集中です。毎月第4水曜日の午後1時半から3時まで、大阪・西梅田の毎日新聞社3階の文化センターで、宝塚取材歴35年以上の薮下講師による最新の宝塚情報や公演評、時にはOGや演出家をゲストに招いてのトークなど、宝塚ファンなら聞き逃せないマル秘ネタ満載の楽しい講座です。11月は29日が開講日。12月には受講者の皆さんが宝塚の年間ベストテンを決める宝塚グランプリの選定会も行います。ふるってご参加ください。受講料(6回分18150円)。詳細問い合わせは?06(6346)8700同センターまで。
◎…明日海りお主演、花組公演「ポーの一族」特別鑑賞会のお知らせ
○…宝塚のマエストロ、薮下哲司さんと宝塚歌劇を楽しむ「花組公演“ポーの一族”特別鑑賞会」(毎日新聞大阪開発主催)が、1月18日(木)宝塚大劇場で開催されます。「桜華に舞え」「幕末太陽伝」「神々の土地」に続く第4回となる今回は、午後1時半からエスプリホールでの昼食会(松花堂弁当)のあと薮下さんが観劇のツボを伝授、3時の回の明日海りお主演、花組公演「ポーの一族」(小池修一郎脚本、演出)をS席(一階中部センター)で観劇します。参加費は13500円(消費税込み)。先着40名様限定(定員になり次第締め切ります。残数僅少。お早めにお申し込みください。)問い合わせは毎日大阪開発?06(6346)8784まで。