c宝塚歌劇団
望海風斗、真彩希帆、雪組新トップコンビ、圧倒的な歌唱力で魅了!「ひかりふる路」「SUPER VOYAGER!」開幕
雪組新トップコンビ、望海風斗、真彩希帆のお披露目公演、ミュージカル「ひかるふる路〜革命家マクシミリアン・ロベスピエール〜」(生田大和作、演出)とレビュー・スぺクタキュラー「SUPER VOYAGER!」(野口幸作作、演出)が、10日、宝塚大劇場で開幕した。今回はこの公演の初日の模様をお伝えしよう。
「ひかり―」は、フランス革命の中心人物の一人でありながら、頑なに理想を追い求め、のちに革命政府によって処刑されるという悲運の末路をたどった革命家ロベスピエールの波乱万丈の半生を描いたオリジナルミュージカル。歴史的事実をたどりながらロベスピエールと彼を殺そうとする貴族の娘マリー=アンヌという架空の人物との恋模様を絡めながら描いていく。宙組公演「NEVER SAY GOODBYE」以来11年ぶりに宝塚歌劇の為に全曲を書き下ろしたフランク・ワイルドホーン氏の音楽の素晴らしさと望海、真彩の比類なき歌唱力に圧倒される1時間35分だ。
一筋の閃光が印象的な劇幕が上がると舞台には、タレーラン役の夏美ようとマノン・ロラン夫人役の彩凪翔が登場。革命後の世相を二人の会話で説明した後、カーテンが開くとそこはルイ16世の処刑裁判の場面になる。望海ロベスピエールが歌う主題歌が素晴らしく、一気に物語の世界に没入できる。(ここからは核心にふれるので要注意)ルイ16世の処刑裁判から自身の処刑裁判で終わるという、因果応報的で悲劇的な作りの中、獄中でロベスピエールとマリー=アンヌがすべてを許し合い、精神的な愛で結ばれ、すべてが宝塚歌劇独特の世界観で昇華されるという大団円が訪れる。
生田氏らしい巧みな作劇だが、歴史的事実を深追いするあまり、理想に燃えてそれに突っ走った男の悲劇というおとしこみどころがやや弱くて、観客にカタルシスを与えるというところまではいかなかった。ロベスピエールをここまで突き動かす理想の原体験とその理想をこなごなに砕くさまざまな圧力の構図が、きちんと整理されず、いまいち分かりにくいのが要因か。とはいえ全曲を作曲したフランク・ワイルドホーン氏の音楽のパワーは圧倒的で、望海、真彩の完璧な歌唱とともに、作品を大きく底上げしていることは確実。この二人、歌うコンビとして長く語り伝えられるだろう。
初日の客席にはワイルドホーン、和央ようか夫妻の姿も見え、終演後はスタンディングオベーション。ワイルドホーン氏は「本当に素晴らしい歌唱力。私が想像していた役にぴったり合い、さらに現代的に表現してくれた」と新コンビを絶賛。和央も「感動しました。一幕ものではもったいない贅沢なお披露目。本当におめでとう」と後輩にエールを送っていたが、実際、その通りだと思った。
望海は、ただひたすら理想を追い求め、妥協を許さず清廉潔白であったがゆえに自らを追い込んでいくロベスピエールを好演、望海本来の個性と二重写しになるくらいの入魂の演技だった。オープニングから何度も繰り返し歌われる主題歌「ひかりふる路」は、これからもずっと望海を代表する曲になるだろう。
相手役の真彩も、その透き通った歌声がいかんなく発揮され、望海とのデュエットはまさに至福。歌の力が舞台をここまで支えるという経験は、長い宝塚観劇体験の中でもついぞなかったように思う。マリー=アンヌという役柄も真彩にはぴったりで、演技的にも無理がなく、お披露目公演とは思えない安定感があった。
この二人以外の主な役どころは、彩風咲奈扮するダントン、この公演がサヨナラ公演となる専科の沙央くらま演じるデムーランの二人。理想に突っ走るロベスピエールを何とか懐柔しようと努力するものの失敗するダントン役を彩風が懐の深さをうかがわせる大きな演技で表現。一方、沙央もロベスピエールとダントンを繋ぐ立場のジャーナリスト役を生き生きと演じた。「1789」ではダントン役だっただけに何か感慨深いものもある。
雪組大劇場初登場となった朝美絢は、ロベスピエールの側近、サンジュスト。ルイ16世の処刑文書を読むなど、各場面にル・バ役の永久輝せあとともに登場する。朝月希和は病死する彩風の妻、ガブリエル役。綾凰華は、ロベスピエールの弟オーギュスタン役だった。
しかし、こう見てくると主演の望海、真彩の二人の印象があまりに強烈で、ほかのメンバーは全体的に影が薄い。役的にも印象的な役があまりなかった。彩凪のロラン夫人も意表を突いた配役で雰囲気はよくだしていたが、役としての面白みはなかった。
小さな役では新聞売り役の諏訪さき、マリー=アンヌの恋人役の眞ノ宮るいといったあたりが印象に残った。「1789」と同じ印刷所が登場、ロナンの恋人役と同じ名前のオランプを舞咲りんが演じている。
さて、この作品の主人公ロベスピエール。宝塚の「ベルサイユのばら」で登場したのは比較的最近で2008年「外伝ベルサイユのばら」から。以降、本編でも革命家ベルナールの横で必ず歌うようになった。その後「THE SCARLET PIMPARNEL」や「1789」とフランス革命についての作品が頻繁に上演されるようになり、いろんな時代のロベスピエールが登場するようになったが、作品によって印象が違い、ロベスピエールってどんな人という疑問が出始めた頃合いを見計らうかのように、満を持しての本格的登場。そういう意味ではこれまで脇役にすぎなかったロベスピエールという人物を主人公にもってきたのはグッドアイデアだった。「ベルばら」から始まった宝塚のフランス革命史シリーズ、ここに極まれりという感じだ。一本立ての大作で再構築すればさらに壮大な歴史ミュージカルになりそうだ。
一方「SUPER―」は、新トップ、望海の船出を祝した爽やかなレビュー。名前にまつわる「希望」「海」「風」「北斗七星」を中心に構成、各場面に野口氏の洒落たセンスがきらりと光る卓抜したステージングが楽しめる。オープニングは、望海が煌めく巨大な錨に乗って宙乗りで登場という仕掛け。ゴールドの制服に着替えた望海を中心に全員が白と紺色の水兵ルックで勢ぞろいしてのプロローグへと発展。50年代のハリウッド映画を彷彿させる群舞シーンで、最初からいきなり客席降りがあって大いに盛り上がる。続いて望海と真彩二人が残ってベートーベンの第九をアレンジした希望のデュエットから一気にロケットに。センターは綾鳳華が務めた。
「海」のオープニングは、夜景の海岸風景を遠景にしたロサンゼルスの小高い丘でのダンスシーンから。映画「ラ・ラ・ランド」でライアン・ゴズリングとエマ・ストーンが踊ったロマンティックなダンスシーンを群舞にした感じの場面で、イエローのジャケットを着た彩風咲奈のみずみずしい青年ぶりがなんともさわやか。彩風は、三井聡氏のノスタルジックでありながら現代的でシャープな振付によく応えていた。相手役は朝月希和。永久輝せあ、縣千が好サポート。
「風」は、南仏の港町サントロペが舞台。曲もミシェル・ルグランの名曲「風のささやき」をフィーチャー。マフィアの望海とかつての恋人、朝美、ジゴロ彩凪のトライアングルラブ。レビュー定番のストーリーダンスだが朝美のなまめかしい女役と一部始終を目撃するクラブ歌手に扮した沙央のけだるい歌声が大人のムードを醸す。続く「北斗七星」は、伝説の島アトランティスが舞台。ラテンモードでコール・ポーターの名曲メドレー。真彩の「ビギン・ザ・ビギン」で一気に手拍子、にぎやかに中詰めへとなだれ込んだ。
中詰め後、望海船長が、航海日誌を見ながら、これまでの足跡を振り返りながら歌う場面のあと、第7章DIAMOND SHOW TIME「希望の海へ」がこのレビューの白眉。淡いブルーに浮かび上がった大階段に望海はじめ雪組メンバーが、男役は白燕尾と娘役は白いドレスで勢ぞろい。雪の白をイメージした場面で、大階段が淡いピンク、虹色に変化する中、計算されつくした華麗で洗練された群舞(麻咲梨乃振付)が展開する。まさに夢のような瞬間、宝塚ならではのゴージャスな場面だった。かつてのジーグフェルド・フォーリーズが再現されたと言っても過言ではないくらい。この場面を見るためだけでもこのレビューを見る価値ありだ。
幻想的な場面の余韻の残る中、続いて退団する沙央のためのコーナー。沙央が、雪と月を歌詞に入れ込んだ惜別の歌「SAILING DAY」をしっとりと歌いながら銀橋を渡る。感傷的なムードの後は彩凪を中心にした若手男役総出演によるワイルドなヒップホップナンバー。この辺の転調ぶりも鮮やか。続いて望海を中心にしたスパニッシュから望海、真彩のデュエットダンスに発展するとレビューの高揚感は最高潮。パレードのエトワールは沙央が務め、永久輝、朝美、彩凪の順で階段降り、彩風が堂々の二番手羽根を背負い、真彩、望海と続いた。望海は「多くの方々のお力と支えがあって今ここに立たせて頂いています。雪組生一丸となって千秋楽まで航海していきたい。何度でもご覧ください」と感謝を込めてあいさつして客席からは万雷の拍手。熱気こもるスタンディングオベーションで新トップの誕生を祝福していた。
c宝塚歌劇支局プラス11月11日 薮下哲司 記
◎「薮さんの宝塚歌劇講座」よりお知らせ
〇…「毎日文化センター(大阪)」では「薮さんの宝塚歌劇講座」(講師・薮下哲司)2017年秋期講座(11月〜3月)の受講生を随時募集中です。毎月第4水曜日の午後1時半から3時まで、大阪・西梅田の毎日新聞社3階の文化センターで、宝塚取材歴35年以上の薮下講師による最新の宝塚情報や公演評、時にはOGや演出家をゲストに招いてのトークなど、宝塚ファンなら聞き逃せないマル秘ネタ満載の楽しい講座です。11月は28日が開講日。12月には受講者の皆さんが宝塚の年間ベストテンを決める宝塚グランプリの選定会も行います。ふるってご参加ください。受講料(6回分18150円)。詳細問い合わせは?06(6346)8700同センターまで。
◎…明日海りお主演、花組公演「ポーの一族」特別鑑賞会のお知らせ
○…宝塚のマエストロ、薮下哲司さんと宝塚歌劇を楽しむ「花組公演“ポーの一族”特別鑑賞会」(毎日新聞大阪開発主催)が、1月18日(木)宝塚大劇場で開催されます。「桜華に舞え」「幕末太陽伝」「神々の土地」に続く第4回となる今回は、午後1時半からエスプリホールでの昼食会(松花堂弁当)のあと薮下さんが観劇のツボを伝授、3時の回の明日海りお主演、花組公演「ポーの一族」(小池修一郎脚本、演出)をS席(一階中部センター)で観劇します。参加費は13500円(消費税込み)。先着40名様限定(定員になり次第締め切ります。売り切れ必至の公演です。お早めにお申し込みください。)問い合わせは毎日大阪開発?06(6346)8784まで。